DropFrame

L19あたりの、プラネタリウムで星を眺めるマモンと留学生ちゃん

 帰りたいか帰りたくないのか、わかんなくなってきちゃったな。そんなずるい言葉が浮かぶ。口にすれば同情してもらえるその言葉は、浮かべるだけで苦く胸の中で溶けていく。
 あと少しで帰ると認識してから、自分の部屋の居心地が悪くなった。ここから居なくなるんだと、強く考えてしまうからだ。なので楽な方へ楽な方へとさ迷っていたら、プラネタリウムに行き着いた。
 天井には星が瞬いている。人間界の星空を映し出すらしいプラネタリウムは無数の星を描いているが、どこの国の空かは分からない。私の国かもしれないし、遠い異国の空かもしれない。けれど今はその距離感が丁度良くて、私はぼうっとただ星を見上げる。

「何が楽しいんだか」

 辟易するようにマモンが言う。文句言うなら帰ればいいのに、と思う反面で彼が寂しがってくれているのを私は知っている。

「……ね、マモン」
「なんだよ」
「流れ星に願い事したら叶うって、知ってる?」

 彼の方に手を差し出せば、理解したようにマモンは手を繋いでくれた。力を抜けば、互いの椅子の間に繋がれた腕が垂れる。ぷらぷらと遊ぶように振れば「くだらねえ」と彼は笑う。流れ星のことなのか、腕の振りの事なのかは定かではない。それでも私は「だよね」と笑い、強く手を握った。指先に力が篭る。離れないようにぎゅうぎゅうと、互いの手を握る。
 お星様に願うのは、おとぎ話を信じている子どもだけだ。
 見上げれば星が広がっている。映像だから、星が流れることはない。それでも明けない空を眺めていたら一筋の奇跡もあるんじゃないのかなって。悪魔や魔法があるのなら、そういう奇跡が起こってもいいんじゃないのかなって。
 祈るように、指先に力を込める。「お前力強いな」と、マモンは笑って握り返してくれる。滲む星空に「そうでしょう」と笑えば、マモンはまた、黙って手を握り返した。