階段の踊り場で、吊るされているマモンを見つけた。幸い周りには人はおらず、響く音もひんひんと泣く彼の声だけだ。経緯なんてきっとろくでもないことだろう。「おいコラ見てねえで助けろ!」なんて恨めしそうな声に、ふと、悪戯心が芽生える。
鳩尾から足先まで、芋虫のように巻き付けられた縄。両手も縛られ、縄は天井に続いている。辺りを確認する私に、不安気な声を漏らすマモン。誰もいないことを確認してその足先に抱きつけば「はあ?!」と威勢のいい声が響いた。
「何してんだお前!」
「甘えてます」
「今じゃねえだろ!」
人魚の尾のようにばたつく彼の足先にぎゅうと抱きつく。荒縄が少しこそばゆいし、体温も分からないけれど日々の寂しさを埋めるならこの位でも十分だ。だってここ最近、仕事や説教やらなんやらでマモンと会えてなかったから。寂しいメッセージを送るほどでもないけれど、やはり、寂しさは募っていて。
「後でたっぷり甘えていいからな! これ解いてくれ!」
「それはルシファーに怒られるからダメです」
「一緒に怒られてやるから! 頼む!」
「じゃああとごふんだけー」
「解いたら何時間でも一緒にいてやるから! 先に解け!」
荒縄に頬を擦り寄せれば「マジで勘弁してくれよ……」と弱々しい声。嫌がる理由も知ってはいるけど寂しさが勝る気持ちの赴くまま、縄ごとぎゅうとマモンに抱きついた。