ほんの少し体調が悪かったけれど、出さなければいけない課題もあったので、ふらつく私はRADへと向かう。「人間は繊細」だの「体調が悪いならこれを食え」だの、朝からずっと隣に張り付くマモンはいつも以上に過保護で。若干だけれど鬱陶しい。
「そこまでじゃない」と「大丈夫だ」と言っても「ぶっ倒れたらあとで俺がルシファーに怒られんだろうが」の一点張り。登校も授業もご飯の時だって、文字通り『片時も離れることなく』彼はずっと隣に居座る。そうして騒ぎ散らかしているからか、魔界の生徒の視線が今日はやけに集まる気がする。
注意はしてこないけれど、はらはらした様子でサタンやアスモに見守られるのも気恥ずかしい。朝方、レヴィに「休んだ方がいいんじゃないの」だとか「一緒に通信授業うければいいじゃん」だとか、渋られたのを思い出す。こんな注目されるならそうした方がよかったのかもしれない。魔界七大君主の名は重いのか、それとも留学生がまだ珍しがられているのか。二人揃って行動すれば、生徒たちは振り向き目を瞬かせる。
「ねえマモン大丈夫だってー」
「大丈夫じゃねえっての」
「大丈夫だもん。それに人間界にいても、このくらいなら学校行ってたし」
「おまえの普段の生活なんてしらねえし」
そりゃあ熱が三九度とかあったり、すごく咳や鼻水が酷ければ心配するけれど、ほんの少し体調が悪いだけだ。……経験上、これから悪化する気もしないこともないけれど。
何か探しているのだろうか。忙しなく周りを見渡す傍ら、マモンがちらりとこちらを見る。そして突然私の首元に指先を添えて一言呟く。
「熱い」
自分の手のひらで額を触ってみたけれど、熱いかどうかはわからない。でも確かにいつもよりも鈍い思考に――そして奇異な視線を向けられることに若干疲れて――「もう帰ろっかな」と私は肩を落とした。
「そうしとけ。で、部屋で寝てろ。外に出んな」
「過保護ー」
荷物を片付け出す彼に「ついてこなくてもいいのに」と私は言う。「うるせー」とマモンは言い二人分の荷物を持ち上げると、私の腕を引いてそそくさと教室を出て行った。見世物になる気はないんだけどな。生徒の波をかき分けながら進むマモンに、彼ら彼女らは奇異な視線で私たちを見る。
「ちょっと恥ずかしいかも」
いつもよりも刺さる視線にそう伝えれば
「ばーか」
と彼は、ぶっきらぼうに言葉を放った。