マグカップほどの鉢植には、まあるいサボテンが植わっていた。指を差し出せばぷくりと膨らんだ株が割れ、ザクロのように赤い口と、凶暴な牙が私の指を狙う。慌てて引っ込めれば、それは残念そうにゆっくりと口を閉じる。
「人間界では植物を送ったりする文化があるんだろう?」
その様を見ていたサタンが、嬉しそうに微笑んだ。一体どんな本を読んだのだろう。そんな文化に身に覚えのない私は首を捻るけれど、彼は気にせずその鉢植と、手のひら大のメモを私に握りこませた。指が株の上にこなければ口を開かないらしい。安堵した私はそろそろとそれを握り込む。
「人間界の植物を取り寄せればよかったんだが、降りる用事がなくてな。これでガマンしてくれ」
強請った覚えもないけれど、部屋に緑があることは悪いことではない。常闇の部屋の中、辛うじて明るい机の上にそれを置けば、丸い株は満足そうにかぷかぷと口を開けた。
手のひらに残ったメモ用紙には、びっしりとお世話の仕方や注意事項が記されている。これをわざわざサタンが調べて書いてくれたのかと思えば、この獰猛な植物と同室というのも悪くはない――かもしれない。
「ありがとう」
「どういたしまして」
サタンが笑えば、サボテンもかぷかぷ口を揺らす。不思議なものだと手を伸ばせば、私の指を狙うように、株が元気に牙を向いた。