鬼の居ぬ間に、というよりも暴食の居ぬ間に。
豪奢に並ぶ夕食を死守せずともありつけたのが嬉しかったのか、やけに食べるスピードが早いなとは思っていた。それでも誰も何も言わないから、ベールのいない食卓はこういうものなんだと思い込んでいた。
誰も何も言わなかったのはアレだ。こうなる展開が、簡単に予想出来たからだろう。
留学用にと割り当てられた部屋。ウォールグリーンと称すには野性味に満ちた草木が生い茂る壁。一人で寝転がるには少々大きなベッドの上で、私ではないソレが転がっている。お腹を抱えて、こちらに背を向けたマモンは時折苦しそうに息を吐きながら、うう、と小さな唸り声を上げていた。
ここが実家ならば胃薬の一つや二つあっただろうに、残念ながらここは魔界だ。だいたい人間用の胃薬が(そもそも悪魔に胃があるのか? というところも謎だけど)効くのかもわからない。
「食べ過ぎだよ」
「お前それを早く言えよ……」
「だって誰も言わなかったんだもの」
「アイツらやけに俺の皿に盛ってくると思ったら……」
なるほど、そんなこともやられていたのか。確かに隣に座っていたアスモが「ぼくこんなにいらなーい」なんて言ってたことや、レヴィが笑みを隠しきれない表情でサタンと話していたことは、なんとなく視界の隅に捉えていたけれど。
それでも自分の限界を超えて食べる方が悪いよな。うん、それは間違いない。
小刻みに震える白銀の髪の毛が、浅葱色のランプで淡く黄色に染まっている。いつもよりも無防備なその頭を撫でてやれば、悔しそうなうめき声が大きなその背の向こうから聞こえた。